今回は債権譲渡についてお話します。
債権譲渡とは、貸付金や売掛金などの債権を、別の債権者に譲渡することです。売買で現金化するほか、金融機関への担保として提供するなど、企業の資金調達手段として活用が期待されています。
今回の改正では、債務者の利益を保護しつつ、より債権譲渡しやすいように効力等が変更されています。
債権譲渡に関する主な改正は、以下の3点です。
債権の譲渡を禁止・制限する特約を、譲渡制限特約と言います。
弁済する相手を固定することで、債務者の利益を図るための特約です。
現行法では、譲渡制限特約のある債権を譲渡した場合、債権譲渡が無効とされる可能性がありました。
「無効になるかもしれない」というリスクから不当に安く評価されてしまい、資金調達に活用しにくい状況にありました。
改正法では、譲渡制限特約が付いている債権であっても、譲渡は原則有効となります。たとえ譲渡制限特約が付いていても、債務者は、譲渡制限特約について悪意又は重過失(知っていたか、ほんの少しの注意で知ることができた場合)の譲受人に対して、履行拒絶ができるのみとなります。
ただし、預貯金債権については、例外的に、悪意又は重過失の譲受人への譲渡が無効となります。預貯金の譲渡を有効とすると銀行業務の負担が大きく、そもそも「預貯金を譲渡して資金調達する」という状況を想定しがたいからと考えられています。
債務者は、悪意又は重過失の譲受人に対しては履行を拒絶できますが、以下のような場合には履行拒絶ができません。
上記②・③は、やや特殊な場合ですが、①は一般的にあり得る状況です。特約を破って譲渡されたからと言って、誰にも払わないということはできない、ということです。
特約に反して債権譲渡がされると、債務者としては、誰に弁済すれば良いのかよく分からなくなります。
万が一弁済相手を間違えれば、二重払いを強いられることになり、他方で、いつまでも支払わずにいると、債務不履行責任を追及されるおそれがあります。
現行法でも、譲受人の悪意・重過失が分からない場合などには、「債権者不確知」として供託することは可能です。しかし、債務者側で一定の調査をしなければならないため、債務者にとっての負担やリスクは残ることになります。
改正法では、譲受人が特約を知っていたかどうかに関係なく、常に供託をすることができるようになります。
必然的に調査の必要もなくなるので、債務者としては、とりあえず供託して、リスクを回避することができるようになります。
ただし、供託できるのは、債権全額であって、一部だけの供託はできないことに注意が必要です。また、供託をしたら、譲渡人と譲受人に通知をする必要があります。
現行法では、債権譲渡された際に、何の留保もせずに譲渡を承諾すると、譲渡人(元々の債権者)に対して主張できた抗弁(債務の履行を拒絶できる理由)を主張できなくなります。これを「異議をとどめない承諾」と言います。
たとえば、AさんがBさんから借りた100万円を完済した後、Bさんが事情を知らないCさんにその100万円の貸金債権を譲渡したとします。本来なら、既に完済していて存在しない債権ですが、もしもAさんが「異議をとどめない承諾」をしてしまうと、Aさんは「もう返した」とは主張できず、Cさんに100万円を支払わなければならないのです。
改正法では、「異議をとどめない承諾」の制度が廃止され、何も留保しなくても、元の債権者に主張できたことは、譲受人に対しても主張できるようになりました。
ただし、債務者自身が、抗弁の権利を放棄することは妨げられないとされています。今後は、債権譲渡がなされた際に、「抗弁を放棄する」といった書面にサインさせられたりしないよう、注意が必要になるかもしれません。
なお、事前に「一切の抗弁は放棄する」といった特約を設けた場合、これが有効かは、解釈に委ねられています。無効とする意見も強いですが、判例が出るまでは分からないので、この点も注意が必要です。
以上の改正は、改正法施行日(2020年4月1日)以降になされた債権譲渡について適用されます。
弁護士法人萩原総合法律事務所(茨城県筑西市・常総市・ひたちなか市)では、中小企業の法律問題を中心に扱っております。
顧問に関する相談料金は無料ですので、お気軽にご相談ください。
顧問契約の形態・費用等は、貴社の事情により、相談に応じさせていただいております。