弁護士法人萩原総合法律事務所(茨城県筑西市・常総市・ひたちなか市) | 弁護士コラム:売る?貸す?どうする?空き家所有者の管理責任②
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弁護士コラム

売る?貸す?どうする?空き家所有者の管理責任②

売る?貸す?どうする?空き家所有者の管理責任②

第2 売る?貸す?どうする?

<事例4>

私たち姉妹がこのまま放置していたら、様々な管理責任を問われることは分かりました。今後、実家をどのように処理すればよいでしょうか。

<回答>

相続財産となっている空き家の処理方法としては、相続放棄、遺産分割、売却、賃貸、相続土地国庫帰属制度の利用、引取業者への有償引取り依頼といったことが考えられます。

1 相続放棄をする

⑴ 相続放棄をして管理義務を負わなくする

相続放棄は、相続人が相続の全てを断り、最初から相続人にならなかったことになる制度です。相続放棄をするには、相続開始を知った時から原則として3ヶ月以内に、相続放棄の申述書を被相続人(亡くなった方)の最後の住所地の家庭裁判所に提出する必要があります。

相続放棄をすることによって、次順位の法定相続人(A子さんの両親、既に亡くなられていたらA子さんの兄弟姉妹など)に空き家の管理義務が移ります。

 

法定相続人の順位は次のとおりです(民法889条)。

第一順位の法定相続人:子ども(先に亡くなっている等の場合、孫)

第二順位の法定相続人:親

第三順位の法定相続人:兄弟姉妹(先に亡くなっている等の場合、甥や姪)

※配偶者は常に法定相続人となります。

 

⑵ 相続放棄をしても管理義務を負うケース

令和5年4月1日以降、「相続放棄をした時に、現に占有している相続財産」については、相続放棄をしても、次順位の相続人に引き継ぐまで、自己の財産におけるのと同一の注意義務の管理義務を負います(民法940条1項)。

 

「相続放棄時に現に占有している」というのは、例えば、被相続人であるA子さんの生前、相続人が一緒に住んでいた場合などです。

他方、B子さんやC子さんのように、実家と離れた場所で生活しており、無関係な生活を送っていたという方であれば、相続放棄をすれば、実家の管理義務を負わない可能性が高いです。

 

⑶ 次順位の相続人がいない場合

法定相続人全員が相続放棄をした場合などには、次順位の相続人がいません。そのため、相続放棄時に現に占有していた相続人が空き家の管理義務から免れるには、相続財産の清算人を選任するよう裁判所に申立てをして、裁判所が選任した相続財産清算人(弁護士など)に引き継ぐ必要があります。相続財産清算人は、相続財産を売却したり、管理したり、相続人不存在による国庫帰属をさせたりすることになります。

相続財産清算人を申し立てるのに、30万円~50万円程度の予納金を家庭裁判所から求められることが多いです。更に、相続財産の建物を取り壊す場合、被相続人が残した預貯金等が取壊し費用に不足すれば、申立人に予め負担を求められることがあります。

 

2 遺産分割をして、相続人の一人が取得する

複数の相続人が空き家を共同で相続した場合、遺言がなければ、原則として法定相続分に沿った持ち分割合で共有となってしまいます。相続人の中で、空き家を取得してもよいという相続人がいたら、遺産分割協議書を作成し、遺産分割の中で取得してもらうことが考えられます。

なお、相続放棄をせずに不動産を相続して売却等する場合、相続を原因とする所有権移転登記、いわゆる相続登記を申請する必要があります。相続人は、不動産を相続したことを知った時から、相続人申告登記の申出か相続登記をしなければならず、正当な理由なく3年以内に行わない場合は10万円以下の過料の対象となるとされています。

 

3 賃貸や売却で空き家を有効活用する

空き家は、所有しているだけでメンテナンスなどの維持負担や税金などの費用が必要です。賃貸や売却には利点があるものの、予め注意しておくべきポイントもあります。

 

⑴ 賃貸における注意点

賃料収入が得られることは魅力です。しかし、給湯器が壊れたときの交換、雨漏りが起きた場合の対応等、通常は貸主の責任で管理しなければなりません。

また、賃貸不動産の設備が故障した場合は、原則として賃料が減額されることになりました。賃料増減請求権(土地について借地借家法11条、建物については同法32条)は従来から規定されていましたが、令和2年4月に施行された改正民法では、賃貸物件が「賃借人の責めに帰することができない事由」により「使用及び収益することができなくなった場合」にはその「部分の割合に応じて減額される」と規定されました(民法611条)。

公益財団法人日本賃貸住宅管理協会では、同条のガイドラインを公開しており、ガスが使えなければ4日目以降、賃料の10%を日割り計算で減額するといった基準が目安となります。

 

このように、賃貸にもリスクはありますので、賃貸物件を管理してくれる不動産業者等に相談・依頼することが考えられます。

 

⑵ 売却における注意点

建築基準法は何度も改正されており、とりわけ旧耐震基準と呼ばれる昭和56年5月31日までの建築確認以前に建てられた空き家は、取壊しを前提にせざるを得ないこともあります。その場合には、更地にする建物取壊し費用を差し引いた金額で売却することがあります。

また、個人間で売買するときには、契約不適合責任に注意が必要です。契約不適合責任とは、売買契約で、商品の種類違い、品質不良又は数量不足など契約内容と異なる不備があった場合に、売主が買主に負う責任のことです。目的物の修補等の追完を請求したり、代金の減額を請求されたりする可能性があります(民法562条、民法563条)

このような責任を負わないように準備するには、空き家の状態を正しく契約内容に盛り込むことが重要です。また、契約不適合責任の免責特約を契約書に適切に盛り込むことも重要です。

 

このように売却にもリスクはありますので、不動産業者への相談・仲介依頼や空き家バンクを利用することが考えられます。

空き家バンク制度とは、市内の空き家を売却又は賃貸したい方から物件情報を登録していただき、市ホームページ等で市に移住・定住したい人等に情報提供する制度です。この場合でも、不動産業者が仲介することになります。

 

4 相続土地国庫帰属制度

賃貸も売却もできない場合、相続土地国庫帰属制度の利用が考えられます。

相続土地国庫帰属制度は、相続した土地について、一定の条件下で国が引き取る制度です。ただし、国が引き取るのは相続した「土地」です。まずは空き家を自己負担で取壊し、更地にする必要があります。担保権が設定されている、土壌汚染されている、境界が明らかでない、所有権に争いがある等といった場合は、受け入れてもらえません。また、一定の勾配・高さの崖がある等、管理に過分な費用・労力がかかる土地も受け入れてもらえません。

更に、引き取ってもらうのに負担金を支払う必要があります。負担金は、10年分の土地管理費相当額とされ、宅地の場合は20万円が基本となります。

 

5 引取業者に引き取ってもらう

賃貸も売却もできず、相続土地国庫帰属制度の利用もできない場合には、引取業者に引き取ってもらうことが考えられます。引取り費用として、50万円程度かかることが多いようです。固定資産税25年分の代金を目安とする業者もあります。

監修者情報
弁護士仙石 博人

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