弁護士法人萩原総合法律事務所(茨城県筑西市・常総市・ひたちなか市) | 弁護士コラム:テレワークの労働災害
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テレワークの労働災害

テレワークの労働災害

1 テレワークが認められる世の中となって、メンタルヘルス不調は増えたのでしょうか。それとも減ったのでしょうか。

通勤のストレスは減ったとされる一方でコミュニケーション不足などによるストレスは増加しているともいわれます。テレワークから生じる従業員へのストレスへの対応が必要になります。

厚生労働省が「テレワークにおけるメンタルヘルス対策の手引き」を発行している背景にも、テレワークの普及に伴うメンタルヘルスへの対策が必要という点にあります。

【参照】 厚生労働省 テレワークにおけるメンタルヘルス対策のための手引きhttps://www.mhlw.go.jp/content/000917259.pdf

 

2 厚生労働省発行の「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」では、テレワークにおいても参考になる作業環境の内容が記載されているので、事業者、作業者ともに参考になります。

【参照】 厚生労働省 情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/content/000580827.pdf

 

3 業務災害の要件

(1)業務災害の要件

労災保険法の保険給付は、労働者に生じた負傷、疾病、障害、死亡といった災害が「業務上」と認められた場合に支給されます(労災7条)。

 

(2)「業務上」であるか否かについては、

①業務遂行性(労働契約にもとづいて事業主の支配下にある状態)

②業務起因性(業務と傷病などの間に一定の因果関係があること)

の2点から判断されます。

 

4 事例の検討

※検討結果はあくまで私見です。

【事例1】

所定労働時間内に自宅でパソコン業務を行っていたが、デスク脇の資料を取るために立ち上がり、座るときにバランスを崩して転倒し、怪我をした。

【検討】

①労働時間中であり、事業者の支配下にある。

②資料を取ることは業務に関連する行為といえる。

③結論として労災認定される可能性が高い。

 

【事例2】

所定労働時間内にリビングでパソコン業務を行っていたが、同じ部屋で遊んでいた自分の子どもが投げたおもちゃが頭に当たって怪我をした。

【検討】

①所定時間内にパソコン業務を行っていたので、業務遂行性の問題はない。

②子供の行為でケガをすることは在宅勤務では想定できるものであり、内在する危険であると考えられることから業務起因性が認められる可能性はある。

③結論として労災認定される可能性がある。

 

【事例3】

所定労働時間内に自宅でパソコン業務を行っていたが、トイレに行くため作業場所を離席した後、作業場所に戻り椅子に座ろうとした際に転倒して怪我をした。

【検討】

上記は【参照】:厚生労働省「テレワーク導入のための労務管理等Q&A集」から抜粋した事例です。

https://jsite.mhlw.go.jp/kumamoto-roudoukyoku/content/contents/001005605.pdf

自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていたが、トイレに行くために作業場所を離席した後、作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒した。これは、業務行為に付随する行為に起因して災害が発生しており、私的行為によるものとも認められないため、業務災害と認められる。

 

【事例4】

所定労働時間内に、一時離席して自宅のベランダで煙草を吸っていたときに、前日の雨でベランダが濡れていたため、足を滑らせて転倒し、怪我をした。

【検討】

①喫煙時間は、その程度が常識的な頻度、回数であれば就業時間中のトイレ時間やコーヒーを飲む程度と同様に、通常、労働時間として取り扱われる。裁判例でも喫煙を労働時間と認めたものは複数あることから業務遂行性は認められる可能性はある。

②喫煙者のために社内に喫煙所を設けている会社において、同様の事故が起きた場合、喫煙所の管理は会社が行っていたことから、喫煙は気分転換の一種として業務行為に付随する行為に起因して災害が発生していると考えやすい。しかし、自宅のベランダは会社の管理が及ばないため、私的行為によるものとみることもできる。

③結論として労災認定される可能性は低いと考えられる。

 

【事例5】

在宅勤務で、自室がないため、ダイニングのテーブルと椅子を使い、ノート型PCでの作業を3ヵ月間続けた。椅子とテーブルの高さが職場とは違い、長時間の作業には向いていなかったようで、腰痛が悪化した。

【検討】

厚生労働省発行の「腰痛の労災認定」では、腰痛を「災害性の原因に腰痛」と「災害性の原因によらない腰痛」の2種類に区分している。この事例は後者の災害性の原因によらない腰痛に分類できる。

短期間の場合には、①筋肉等の疲労を原因とした腰痛にあたるかどうかだが、「腰痛の労災認定」にある4つの例のいずれにも該当しないと考えられる。

結論として、本事例が業務災害と認定される可能性は低いと考えられる。

【参照】:厚生労働省:「腰痛の労災認定」

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/111222-1.pdf

 

【事例6】

以前はオフィス勤務だったが、コロナ禍以降は在宅勤務が中心になった。業務時間は以前と変わりはないが、業務と私生活のメリハリがなくなってしまい、他の従業員ともコミュニケーションが減ってしまった。このことがストレスになり、うつ病と診断されてしまった。

【検討】

厚生労働省の定める「心理的負荷による精神障害の認定基準」 では、労災認定されるためには、以下の点が認められる必要があります。

ア 対象疾病を発病していること

イ 対象疾病の発病前おおむね6ヵ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること

ウ 業務以外の心理的負荷および個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと

 

本件では、うつ病は対象疾病にあたるので、イ、ウの該当性が問題になります。イについては、業務による心理的負荷評価表があり、極度の長時間労働(発病1か月前に160時間超える時間外労働)など、「特別な出来事」があればイは該当します。

そのよう「特別な出来事」がなければ、別表1の具体的出来事を総合評価して、強、中、弱に評価します。

この事例は、在宅勤務中心に変わったという点は、別表1項目18の「勤務形態に変化があった」、同19の「仕事のペース、活動の変化があった」に該当する可能性があります。

これらの項目は、心理的負荷は「弱」とされることが一般的です。

ウについても、別表に具体例の記載があります。天災や火災にあったなどが挙げられています。天災ではないが、コロナによる生活の変化が「業務以外の心理的負荷」に考慮されることはあり得ると考えます。

結論として、本件で労働災害と認定される可能性は低いと考えます。

【参照】

厚生労働省 心理的負荷による精神障害の認定基準について

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z3zj-att/2r9852000001z43h.pdf

厚生労働省 心理的負荷表

https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000638825.pdf

 

5 まとめ

一つの視点として、テレワークの労働災害を判断する際に、もしオフィスで類似のことが起きたらどうなるかと考えると理解しやすくなるかもしれません。

テレワークは今後もあり続ける仕事のやり方ですので、事例の集積がなされていき、より判断も容易になるでしょう。

以上

 

監修者情報
代表弁護士萩原 慎二

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