事例1
私は施設の管理者です。 職員A(男性)が先輩パート職員B(女性)に関して、職場内で「Bにロックオンされた。」「Bが俺と再婚したがっている。」等言いまわっているとBから相談を受けました。 Bは既婚者でAより一回り上です。最初は、Aの冗談と思い笑って対応していたとのことですが、Aの言動はエスカレートし、他の職員にAとBが交際中と誤解されるような発言をし、利用者(男性)とBが談笑していると間に割って入る等して、仕事の支障もあるそうです。また、Bの拒否にもかかわらず、肩や手をマッサージしてきたこともあるそうです。 BはAを怖がっている様子で、秘密裡にセクハラ事例として対応してくれないかと相談されました。 |
Q1 AはBに恋愛感情をもってアタックしていただけとも思えますが、Aの言動はセクハラに該当しますか。
A1 判例には、加害者側の「言動の意図」を汲み、違法性を弱めて認定する例もあります。
しかし、その場合、被害の度合いとの総合考慮で判断されるので、加害者に加害の意図がないというだけで、ハラスメントとの認定を免れるものではありません。
加害者の意図が相手を害することに無かった(真摯な恋愛感情)としても、それを伝える方法やタイミングを誤り、Bの職場環境を害したのであれば、セクハラは成立します。
Aの言動が実際に存在したのであれば、交際していると誤解されるような言動を職場内で繰り返し、拒否しているにもかかわらず身体に不必要な接触をしているため、Bの就業環境は害されているといえ、セクハラに該当します。
Q2 秘密裡に調査して欲しいと言われますが、会社としてはAからの言い分や他の職員の目撃状況も確認したいと思います。どう調査すれば良いでしょう。
A2 秘密調査の要望と、会社側の真実究明の必要は、ハラスメント事例で悩ましい問題です。
プライバシー保護や被害者感情に寄り添った対応の必要性はありますが、会社が懲戒処分を行うためには、事実認定をし得るだけの調査を尽くすことが必須です。
そのため、原則的には事案把握のための加害者からの聞き取りが必要です。
Bには、セクハラがあるのであれば、懲戒処分を視野に入れて検討しなければならず、それが会社の安全配慮義務であることを説明し、懲戒処分を検討するためには事実認定をするための調査が必要であることを理解いただいた上で、Aからの聞き取りを行っていくのが妥当と考えます。
ただし、Bの要望についても汲めるところを汲み、Bからの相談であることがAに悟られないよう、事案を特定せず、職場環境に関する職員全員への聴取という形をとって行う等、工夫も考えられます。
また、職員数が多い職場では、無記名アンケート方式等が有益な調査となることもあります。そのほか、特定の事件として事情聴取する場合には、個々に、守秘義務誓約書に署名を求める等の工夫もあります。
聴取において気を付けるべきこととしては、Aからの聞き取りの際に、加害者と決めつけず事実を聞き取り、適正手続き保証の観点から弁明の機会を与えることにも注意が必要です。
被害者側の言い分を聞くと、つい、前のめりな調査をしてしまう方もいますが、処分はあくまでも調査終了後に、調査で判明した事実をもとに決めることです。
まずは、事実の聞き取りに注力してください。
聴取結果は後日懲戒処分の正当性を示す重要な資料となります。処分対象者から処分を争われた際、会社の判断の正当性を述べるための重要な証拠になることを意識して、聴取結果の取得をしてください。
可能であれば、聞き取りは複数名(ただし圧迫を与えない人数)で対応し、聴取日時、聴取内容、場所、出席者について記録化しておきましょう。
聞き取りにより、客観的証拠(SNSの履歴、手紙、録音等)の存在が判明した場合は、所持者の了解を得たうえで、それらの保存・複写も行いましょう。
事例ごとの聞き取りに関しての注意点等も弁護士にご相談ください。
Q3 懲戒規定にセクハラに関する規定がないのですが、処分して問題無いでしょうか。
A3 懲戒処分を行うには、懲戒事由該当性(就業規則根拠)が必要となります。
判例では、パワハラ行為を懲戒事由に規定していなかった就業規則に関して、処分の有効性が問われた事案で、セクハラ行為を懲戒事由として記載していたことから、包括規定により、パワハラ行為も類似行為として懲戒処分が認められると判断したものがあります。就業規則を確認し、包括規定等からの処分が可能かの検討が必要になります。
しかし、いざという時に困らないよう、就業規則については、定期的な見直しを行い、必要な規定が抜けていないか確認を行いましょう。
処分については、過去の懲戒処分のデータをもとに、類似行為には同等の処分を課すのが原則です。ただし、ハラスメントは、世間が厳しく認知するようになってきている分野です。過去の判断が、時代にそぐわないものになっていないか、最近の判例や業界の動向も注視しましょう。過去に処分例が無い場合も、業界の類似事例の処分例や判例等が参考になります。
就業規則の定期的見直し、同業他社の処分例・判例調査等も弁護士にご相談ください。