近年、カスタマーハラスメント(カスハラ)が社会問題として注目を集めており、国会でも「カスハラ防止法」制定に向けた動きが進んでいます。
そこで今回は、カスハラによって起こる問題と、企業としての対策について解説します。
カスハラと正当なクレーム(意見)は、どう区別すれば良いのでしょうか。
2025年1月現在、法律上の定義はありませんが、厚生労働省はカスハラを以下のように定義しています(カスタマーハラスメント対策企業マニュアル)。
「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」 |
簡単に言うと、「こちらに落ち度があるのか」「落ち度があるとしても要求が過剰ではないのか」ということを検討することになります。
具体的には、以下のような例が考えられます。
①要求自体に妥当性がないケース
・理由もなく値引きや無償サービスなどを求める行為
②要求内容にかかわらず手段・態様が不相当なケース
・ミスをした従業員に対して土下座を求める行為
・暴行、脅迫などの違法な行為
③要求内容に照らして、手段・態様が不相当と考えられるケース
・数分の遅刻に対して長時間説教する行為
・適切な説明をしたにもかかわらず執拗に苦情の電話をかけ続ける行為
今後制定される「カスハラ防止法」は、企業に対してカスハラ対策を義務付ける内容になると思われます。そのため、企業側としては今のうちから準備をしておく必要があります。
また、法律上の義務がないとしても、カスハラ対策をしないことで、企業には以下のように様々なリスクが発生します。
・生産性が低下する
・離職率が上がる
・従業員の心身が傷付き、労災に発展する
カスハラへの対応を誤った事例として、以下のような裁判例があります。
【甲府地判H30.11.13】
市立小学校の教諭であるXが保護者宅で犬にかまれたトラブルに関して、校長がXの言動を一方的に非難し、床に膝をついて頭を下げるという謝罪をさせた。Xはうつ病を発症し入通院を余儀なくされた。 判決では、保護者側の「理不尽な要求に対し、事実関係を冷静に判断して的確に対応することなく、その勢いに押され、専らその場を穏便に収めるために安易に行動したというほかない」として、校長のパワハラ行為を認定し、慰謝料を100万円とした。 |
①企業としての基本方針(カスハラへの毅然とした対応)を周知する
②従業員が相談・報告しやすい体制づくり、対応のマニュアル化
③カスタマー(顧客)への啓発(パンフレットの作成等)
カスハラは、客側が一方的に理不尽な場合だけではありません。企業側の対応や従業員のミスが発端となっている場合も多々あります。そのような場合に、罪悪感や責任感から従業員が抱え込んでしまわないよう注意が必要です。
また、客側がカスハラに無自覚というケースもあります。セクハラやパワハラと同じように、客側にカスハラへの理解を深めてもらうことも重要です。
カスハラは外部の人間によるものなので、企業側の努力だけで100%防止することは難しいと言えます。そのため、企業としては、カスハラと思われる事案が発生した場合の対応も整備しておかなければなりません。
カスハラと思われる事案の報告があったら、まずは当事者となっている従業員に対して、「組織として適切な対応をとる」ということを約束し、安心してもらいましょう。
その上で、その従業員から、正確に事実を聞き取ります。いつ、どこで、誰が、どのような行為をしたのか、客観的な事実を具体的に確認します。
事実が確認できたら、カスハラの定義に該当するのか検討します。
また、対応方法を検討する前提として、事案の発端が何なのか(単なる嫌がらせか、ミスや不良品への怒りか、何かの誤解か)を分析することも重要です。
どのような対応が適切かは、カスハラの内容によって変わってきます。
上司がはっきりと要求を断る、丁寧に説明する、担当者を変更するなど、企業単体での対応で円満に解決することもあります。
暴力や脅迫など、明らかな犯罪行為があれば、警察に相談することも必要でしょう。また、認知症など病的な原因がある場合は、市区町村など行政に相談した方が良い場合もあります。
しかし、こういった対応では解決が難しく、法的な措置が必要となる場合もあります。そもそも、カスハラと言えるのか判断が難しい場合もあるでしょう。
そのような場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。
当事務所では、企業様のご要望に応じて、クレーム対応に特化した顧問契約をご用意することも可能です。カスハラから従業員を守り、時間と労力を有効に活用するためにも、お気軽に当事務所へご相談ください。