相続法改正の押さえるべきポイントの第5回は,特別の寄与(民法1050条)です。
この制度は,令和元年7月1日から施行されており,この日よりも後に開始した相続について適用があります。
被相続人(亡くなられた方)の親族(相続人等を除く)が無償で療養看護等を行った場合,その親族は,相続人に対して,一定の要件の下で金銭的な請求ができるようになりました。
【改正前】
従来から,被相続人に貢献した人に対し,貢献度合い等に応じて相続財産から分配する制度は,寄与分(民法904条の2)というものがありました。
しかし,寄与分は,相続人のみが対象です。相続人ではない親族については,被相続人に貢献しても,相続人がいる限り,何らかの財産の分配を請求できる制度はありませんでした。
(ケース)
Aさんは,自宅において,亡き長男の妻Bさんに長年にわたり無償で介護等の世話をしてもらっていました。Bさんの世話がなければ,施設で高額な介護等を受ける必要がありましたが,その費用を抑えることができました。 しかし,Aさんが亡くなった場合,亡き長男の妻Bさんは,Aさんの相続人ではないため,相続財産の分配を受けられません。 他方,Aさんの長女Cさんや次女Dさんは,疎遠であったとしても,相続財産を取得できます。 |
【改正後(「特別の寄与」の新設)】
相続人ではない親族についても,無償で療養看護等の貢献をした場合には,相続人に対して,貢献度合い等に応じ,一定の要件の下で金銭的な請求(特別寄与料)ができるようになりました。
(ケース)
Aさんは,自宅において,亡き長男の妻Bさんに長年にわたり無償で介護等の世話をしてもらっていました。Bさんの世話がなければ,施設で高額な介護等を受ける必要がありましたが,その費用を抑えることができました。 Aさんが亡くなった場合,亡き長男の妻Bさんは, Aさんの相続人である長女Cさんや次女Dさんに対して,特別寄与料を請求することができます。 |
特別の寄与の要件は,次の5つです。
① 被相続人の親族であること
② 無償で療養看護等の労務の提供をしたこと
③ ②により,被相続人の財産の維持又は増加をしたこと
④ ③が特別の寄与にあたること
⑤ 被相続人の相続人・相続放棄をした者・相続欠格に該当する者・廃除によって相続人の権利を失っている者に該当しないこと
①~⑤をみたす場合に,特別寄与者として,相続人に対して,特別寄与料を請求することができます。
当事者間で協議しても話がまとまらないときには,家庭裁判所に申し立てることになります。家庭裁判所は,寄与の時期や方法,程度,相続財産の額等の一切の事情を考慮して特別寄与料を計算します。
相続人が複数いる場合には,特別寄与者は,相続人を選択して特別寄与料の請求をすることができます。もっとも,各相続人に請求することができる額は,特別寄与料の額に当該相続人が相続した割合(相続分)を乗じた額が限度です。特別寄与料の全額を,相続人の一人に請求することはできません。
特別寄与者が家庭裁判所に対して,協議に代わる処分を請求することができるのは,相続の開始及び相続人を知ったときから6か月以内,又は相続開始の時から1年以内とされており,時間的な余裕はあまりありません。
また,被相続人の親族が療養看護をしていたとしても,その親族が被相続人に生活費を負担してもらっていた場合に無償といえるのか(要件②),親族の行為が貢献に報いるのが適当といえるような程度の貢献なのか(要件④)等,法律的な解釈を踏まえて特別寄与料が請求できるか判断する必要があります。
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