相続をめぐる紛争の原因は様々ですが、先妻がいる場合など、もめやすい相続関係が存在します。今回は、もめやすい相続関係とその対応について、いくつかご紹介したいと思います。
先妻との子と後妻との子は、いずれも被相続人の子である以上、法定相続分は均等です。
被相続人に子がいる場合、死亡時の配偶者である後妻の法定相続分は2分の1になります。他方、先妻は死亡時の配偶者にあたらないため、先妻に相続分はありません。
後妻2分の1
先妻の子4分の1
後妻の子4分の1
もっとも、先妻との子は先妻が親権者となり父とは長年会っていないということも多いでしょうし、後妻の子は異母兄弟の存在すら知らないこともあり得ます。そのため、後妻や後妻の子からすると、先妻の子が遺産の4分の1を取得することに不満を抱くケースも少なくないようです。紛争化を避けるためには、父が生前に遺言書を作成しておくべきであったといえるでしょう。
異母兄弟・異父兄弟のひとりが亡くなり、被相続人に子どもや直系尊属がいない場合には「兄弟姉妹」として相続人になります。
異母兄弟・異父兄弟が相続人になる兄弟姉妹の相続では、被相続人と父母の双方を同じくする兄弟姉妹に比べて、異母兄弟・異父兄弟の相続分は2分の1になりますので、注意が必要です(民法900条4号ただし書)。
異母兄弟・異父兄弟は、面識がない場合も多く、また、面識があっても、一旦関係がこじれると対立が深刻化し、紛争解決まで長い道のりをたどることになります。そこで、感情的にならずに、冷静に話合いをすることが大切です。
また、異母兄弟・異父兄弟が遺産分割協議から除外されると、その遺産分割協議が無効になってしまいます。したがって、相続人調査をしっかり行うことが重要です。調査が難しい場合には、弁護士等の専門家に依頼することも検討するべきでしょう。
被相続人である父に婚姻外で生まれた子がいる場合、(1)被相続人である父が認知をしている場合と、(2)被相続人である父が認知をしていなかった場合に大きく対応が分かれます。
(1)婚外子であっても、認知により法律上の親子関係が認められるため、相続においては婚姻関係のある男女間に生まれた子(婚内子)と同様に扱われます。かつては、婚外子の相続分を婚内子の2分の1とする規定がありましたが、最高裁判決(最判平成25年9月4日)を契機にそのような不平等な取扱いが改められることとなりました。婚外子であっても婚内子と同様に扱われるので、通常どおり他の相続人と遺産分割の手続を進めることになります。
(2)被相続人が認知せずに死亡した場合、婚外子に相続権は認められません。そのため、ほかの子どもと同じように育てられてきたにもかかわらず、婚外子というだけで全く遺産を取得できないという事態が生じます。このような事態を避けるためには、生前に認知をしたり、遺言書内で認知(遺言認知)を行ったりすべきです。
被相続人がこれらの手続をとらずに死亡してしまった場合、婚外子は、3年以内に検察官を被告として死後認知の訴えを提起することができます(民法787条)。死後認知が認められると、他の相続人との遺産分割に参加することになりますが、既に遺産の分割やその他の処分が行われてしまった場合には、次のような対応となります。
① 婚内子が遺産分割をした場合、認知された子は、婚内子らに対し、相続分に相当する価額の支払を請求できます(民法910条)。ただし、遺産分割のやり直しを求めることはできません。
② 妻と婚内子が遺産分割をした場合、婚内子には価額支払請求をすることができますが、妻には請求をすることができません(東京地判平成28年10月28日)。
③ 子よりも後順位の直系尊属や兄弟姉妹が遺産分割をした場合、本来は相続人でない者が遺産分割を行ったことになるため、その遺産分割は無効となります(多数説)。認知された子は、相続回復請求により遺産を取り戻すことになります。
④ 妻が唯一の相続人と考えられており、既に遺産が処分されてしまった場合、妻に対して価額支払請求をすることができます。ただし、遺産分割を行うことはできません。