第1 空き家所有者の管理責任
<事例1>
6年ほど前に母が亡くなり、実家が空き家になりました。父は早くに亡くなり、母(A子)には空き家とその土地(いずれも母名義)以外に、わずかな現金しか財産はありませんでした。私(B子)は長女ですが、遠方に住んでおり、実家を管理することができません。妹(C子)も遠方に住んでおり、あまり連絡を取っていません。母の遺言はなく、母の残した現金については、姉妹で半分ずつ分けました。 最近になって、市役所から、「空き家等の適正管理について」という通知が届きました。通知には、①母が亡くなっていること、②母が所有していた自宅が空き家になっているためきちんと管理をお願いしたいこと、③放置して周辺家屋等に被害が及んだ場合には、損害賠償等管理責任を問われるおそれがあることが記載されていました。併せて老朽化した実家の写真が添付されていました。 これはいったい、どういった通知なのでしょうか。 |
<回答>
今回、相談者であるB子さんの元に届いた通知は、空家等対策の推進に関する特別措置法の第12条、第3条に基づくものと思われます。
同法は、全国的な空き家対策が課題となる中で、地域住民の生命・身体・財産の保護、生活環境の保全、空家等の活用等の為、平成27年2月26日より施行されました
役所の職員が発見したり、近隣からクレームが入ったりすること等により、放置された空き家が見つかった場合、B子さんのように通知の手紙が届くことがあります。
1 空き家とは
空き家については、「空家等」という名称で、「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)」と法律上定義されています(空家等対策の推進に関する特別措置法2条1項)。
すなわち、年間を通じて誰も住んでおらず、使用もしていないような建物だけではなく、その敷地、敷地内の物も含めて、「空家等」といいます。
2 空き家所有者の管理責任とは
⑴ 空き家の所有者
まず、A子さんが亡くなると、相続が開始されます。今回、A子さんに遺言はありません。そうすると、相続人間で遺産分割の合意をするまでは、A子さんの財産は、相続人である子ども達のB子さんとC子さんの共有状態となります。2人が空き家の所有者ということです。
このように、法務局に登記にされている人(A子さん)の名義と異なっていても、所有者とされますので注意が必要です。
⑵ 空き家であることの危険性
人が住んでいない家は、老朽化により、倒壊の危険性が生まれてしまいます。また、不審者の溜まり場、ゴミの不法投棄、害獣の繁殖、放火などの危険性が高まってしまいます。さらに、庭があれば、植木や雑草等が伸び放題になり、隣家に枝が越境したり、害虫の繁殖地になったりしてしまう可能性があります。
⑶ 空き家対策特別措置法上の管理責任
ア 「空家等」と「特定空家」
空家等対策の推進に関する特別措置法では、空き家を、使用されていないことが常態である「空家等」(同法2条1項)と、空家等のうち倒壊等のおそれがある「特定空家」(同条2項)に分けて規定されています。
特定空家に指定されると、所有者の受ける規制が増える仕組みになっています。どのような場合に特定空家となるかについて、国土交通省が様々なケースについて、ガイドラインを公表しています。例えば、倒壊等するおそれがあると判断する基準の一つとして、「空き家の傾斜が20分の1を超える程の著しい傾斜」などが挙げられています。
イ 「空家等」や「特定空家」の指定を受けた場合の不利益
(ア) 「特定空家」の指定を受けてしまったので空き家を処分したいと思う反面、取壊して更地にすると固定資産税が増額する、取り壊し費用がないといった理由で放置していると、結局、次のような不利益が生じる可能性があります。
(イ) 「空家等」の指定を受けると、市町村から情報提供、助言その他の援助(同法12条)を受けることがあります。
更に、「特定空家」の指定を受けると、次のような措置があり得ます。
①市町村長から、修繕等の措置をとるよう助言又は指導を受けることがあります(同法14条1項)。
②助言指導をしても改善されない場合、勧告(同法14条2項)を受けることがあります。この勧告を受けると、固定資産税等の住宅用地特例の適用が除外されます。
③勧告にも従わない場合、勧告に係る措置を命令することができます。命令にも従わない場合、50万円以下の過料となることがあります(同法16条)。
④命令を履行しない場合、市町村長は行政代執行をできるようになります(同法14条9項)。その費用は、所有者等が負担することになります。
⑷ 民法上の責任
空家等の指定を受けていなくても、空き家や土地の所有者は、以下の事例のように、様々な民法上の責任を負うことがあります。
<事例2>
隣家から私(B子)のもとに連絡がありました。母A子名義のままである空き家が老朽化し、台風などで屋根瓦が大量に飛んで、隣家の窓を割ってしまいました。通行中の人にも怪我をさせてしまったようです。 |
<回答>
A子さん名義のままであっても、B子さんやC子さんの管理に「瑕疵」があれば、怪我をした人、窓を割られてしまった人から、空き家所有者の工作物責任(民法717条)として、窓の修理費や怪我の治療費などの賠償責任を問われる可能性があります。
例えば、以前から屋根瓦が落ちたりして、市役所や近隣から注意を受けていたのに、補修を怠っていた、台風の強度にもよりますが、周囲の同じ家の屋根瓦には何の問題もなかったのに、その家の屋根瓦だけ飛んでしまったといった場合には、管理に瑕疵があったとされる可能性があります。
また、隣家に飛んで行ってしまった屋根瓦の撤去を隣家が業者に依頼した場合、業者の費用は、屋根瓦の所有者であるB子さんとC子さんの負担となります。
<参考条文>
(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第七百十七条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
<事例3>
隣家から私(B子)のもとに連絡がありました。母A子名義のままである実家の大木の枝が、隣家に越境しています。剪定を業者に頼まなければいけないほどの大きさですが、放置してしまっていました。隣家から枝をどうにかして欲しいと言われましたが、このまま放置するとどうなりますか。 |
<回答>
隣家は、B子さんやC子さんに対し、枝を切除するよう催告し、相当期間内に切除しない場合には、隣家は、自ら越境している部分の枝を切除することができます。
催告の相当期間は、業者に剪定を依頼するのに必要な期間を考慮します。催告の相当期間は、1~2週間程度とすることが多いですが、大木ということで1か月程度とすることもあり得ます。
越境しているのが大木の枝であれば、隣家は、越境部分の枝の切除を業者に依頼すると考えられます。その場合、業者の費用は、B子さんとC子さんの負担となり、後日請求される可能性が高いです。
<参考条文>
(竹木の枝の切除及び根の切取り)
第二百三十三条 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 (略)
3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
三 急迫の事情があるとき。
4 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。